Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

8/6因果フェスのプレビュー:「系列Aと系列Bの関係は?」という問いに対する4つの素敵な解法について

こんにちは。林岳彦です。エ・レ・ファ・ン・ト・カ・シ・マ・シ(←滝川クリステル風に声に出して読みたい日本語)。


さて。

今回は8月6日に迫った日本生態学会関東地区会シンポジウム(a.k.a 因果フェス)についてのプレビューを書いてみたいと思います。

今回のシンポにおける問いを一言で言うと:「系列Aと系列Bはいかなる関係か?(*但し共変量および背景に関する情報は無いものとする*)」

統計的因果推論というと「介入効果/措置効果の推定」のことを思い浮かべる方も多いのかもしれませんが、そのテーマは昨年に扱いました

で、今年については本質的には以下の問いが中心になると言えるのかなと思います:

「系列Aと系列Bはいかなる関係かについて答えよ(*但し共変量および背景に関する情報は無いものとする*)」

はい。
これはシンプルではありますが非常に奥の深い問いです。

今回のシンポでは、この問いに対する4つの素敵な解法が紹介されることになります。


それぞれの解法を簡単にプレビューしてみます:


解法1:LinGAMによる解法
午後の部の最初の講演者である大阪大学の清水昌平さんからは、LiNGAM (Linear Non-Gaussian Acyclic Model)という手法を用いて因果が「A→B」なのか「A←B」なのかはたまた「因果関係なし」なのかを識別する方法を中心にお話いただきます。

この手法においては、非ガウス型の誤差分布により生じる非対称性を利用して因果関係が推定されます*1

*LiNGAMについての解説は以下でも見ることができますが、より詳しく知りたい方はぜひ本シンポにご来場いただければと思います。


解法2:Grangerの因果性テストによる解法
午後の部の2番目の講演者であるリクルートコミュニケーションズの尾崎隆さんからは、Grangerの因果性テストという手法を用いて2つの時系列データA, Bの間の"因果関係"を識別する方法についてお話いただきます。この手法においては、時系列間での相互予測力における非対称性を利用して"因果関係"が推定されます*2

(ここで"因果関係”とハイフン付きで書いているのは、ひとくちに”因果”といってもその意味内容には色々バリエーションがあるためです。その辺りの概念的な議論については午前の部において神戸大学の大塚さんに科学哲学の観点からご講義していただく予定です)

*Grangerの因果性テストの解説は以下でも見ることができますが、より詳しく知りたい方はぜひ本シンポにご来場いただければと思います。


解法3:Convergent cross mappingによる解法
午後の部の3番目の講演者である中央水産研究所の中山新一朗さんからは、Convergent cross mapping (CCM) という手法を用いて2つの時系列データA, Bの間の"因果関係"を識別する方法についてお話いただきます。この手法においては、非線形力学系に支配される原因系列と因果系列に含まれる情報量*3の非対称性を利用して"因果関係"が推定されます*4

上述のGrangerの因果性テストがstochasticな系の解析に適しているのに対し*5、CCMは決定論的な系の解析に適したものになっています。CCMは2012年にGeorge SugiharaらがScience誌で発表した比較的新しい手法であり、時系列因果推論におけるhotでsexyな解析手法として急速に広まっているようです*6

*Convergent cross mappingについての日本語の解説はまだ殆どないと思いますので、より詳しく知りたい方はぜひ本シンポにご来場いただければと思います。


解法4:MIC等による解法
最後の講演者であるALBERTの今井徹さんからは、AとBの間の非線形の関係性を捉える方法についてお話をいただきます。基本的には線形の世界において定義されているいわゆる「相関係数」というものを、非線形系も含めた一般的な概念としてどこまで拡張できる/推定できるのかというお話になるかと思います。

*今回のお話のプレビュー的なものを以下で見ることができますが、最新の話を含めてより詳しく知りたい方はぜひ本シンポにご来場いただければと思います。


はい。

というわけで以上4つの解法について簡単にプレビューをしてみました。
Grangerの因果テストとCCMは時系列データの解析手法であり、LiNGAMとMICは時系列に限らない一般のデータを対象とした解析手法となります。

ご興味のある方はこの機会を逃さずに是非ご来場いただければと思います。(非生態学会員の皆様もご遠慮せずにぜひどうぞ!)


では、8月6日の東大駒場キャンパス11号館におけるきっと素晴らしき可能世界にてお会いしましょう。


以下告知文の再掲:

当シンポの概要は以下のとおりです(生態学会関東地区会での正式告知はこちら):


生態学会関東地区会シンポジウム・公開シンポジウム
「非ガウス性/非線形性/非対称性からの因果推論手法:その使いどころ・原理・実装を学ぶ」


日時:2015年8月6日(木)10:20-17:50
会場:東京大学駒場キャンパス11号館 1101教室(11号館の地図駒場へのアクセス
主催:日本生態学会関東地区会 (link
企画者:林岳彦(国立環境研究所環境リスク研究センター)、津田真樹(テクノスデータサイエンス・マーケティング株式会社)
参加費:無料(事前申し込み不要)


プログラム

(1) 10:20-10:30
林 岳彦(国立環境研究所環境リスク研究センター)
「進化生態学者のための前口上:フィッシャー、ライト、因果推論」


(2) 10:30-11:30
大塚 淳(神戸大学大学院人文学研究科)(大塚さんのHP
「哲学から見た「因果」概念のレビュー」


[休憩1時間]


(3) 12:30-14:00
清水 昌平(大阪大学産業科学研究所)(清水さんのHP
「非ガウス性を利用した因果構造探索」


(4) 14:00-14:45
尾崎 隆(株式会社リクルートコミュニケーションズ)(尾崎さんのHP
「Granger因果による時系列データの因果推定」


[小休憩15分]


(5) 15:00-16:30
中山 新一朗(中央水産研究所)
「Convergent cross mapping の紹介と実践:決定論的力学系における因果関係推定」


(6) 16:30-17:15
今井 徹(ALBERT)(今井さんの記事
「非線形の関係を捉える各種指標(MIC等)について」


(7) 17:15-17:50
コメンテーター:黒木学(統計数理研究所)、久保拓弥(北海道大学)、伊庭幸人(統計数理研究所)
コメンテーターからのコメント&全体討論


問い合わせ先
林岳彦(hayashi.takehikoあっとまーくnies.go.jp)

  • 公開シンポジウムのため、どなたでもご聴講できます
  • 事前申し込み不要です(万が一会場が満杯になりましたら大変申し訳ありません)
  • 長丁場のため、個別のご講演のみのご聴講も歓迎いたします

*1:ちなみにRでもLiNGAMを実行できる関数が既に存在します

*2:という理解をしているのですが間違っていたらごめんなさい

*3:という言い方は適切でないかも?

*4:という理解をしているのですが間違っていたらごめんなさい

*5:間違っていたらごめん

*6:ちなみにRでもCCMを実行できるパッケージが既に存在します