Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

『統計的因果推論:モデル・推論・推測』を読む(その1)

今回から以下の本を読んでメモを残していきたいと思います。自分の場合、厳密に言うと「ベイズ統計」自体よりも「因果推論」の方に興味があるので。

統計的因果推論 -モデル・推論・推測-

統計的因果推論 -モデル・推論・推測-

著者のJudea Pearlさんは「人工知能分野の巨人のひとり」ということです。その筋ではきっと有名なのでしょうね。最後まで読めるかなあ。

第一章 確率、グラフ、因果モデル入門 「1.1 確率論入門」

細かく引用していくとキリがないので、印象に残った部分だけをメモしていきます。

引用メモ(p4:強調引用者):

積事象に基づいて条件付き確率を
P(A|B)=\frac{P(A,B)}{P(B)}
と定義する伝統的な慣習とは異なり、ベイズ哲学者は条件付きという関係を積事象という関係よりも基礎的なもの、すなわち人間の知識構造と比較可能なものとして捉えている

ほうほうなるほど。

ひとくちに「ベイジアン」といっても色々な立場の方がおりますが、これはかなりディープなベイジアンですね。「条件付きという関係を積事象という関係よりも基礎的なものであると考える」というのは最もハードコアなベイジアンの定義の一つとして使えるかもしれません。


引用メモ(p5:強調引用者):

一方、数学的には、(1.13)式(*引用注:ベイズの定理の式)は条件付き確率の定義
P(A|B)=\frac{P(A,B)}{P(B)}およびP(B|A)=\frac{P(A,B)}{P(A)} (1.14)
から導かれるトートロジーとして軽視されることがあるが、ベイズの主観的確率論の研究者は、(1.13)式をある証拠を得た場合に確信度を更新するための標準的な規則であると考えている。すなわち、純粋数学者は(1.14)式のような条件付き確率を数学的構造体とみなしているのに対して、ベイズ推論研究者はそれらは、言葉の構成要素でかつ「Aであることがわかったとき」という国語表現*1の忠実な翻訳であり、(1.14)式は定理というよりも、経験的に立証可能な国語表現の関係であると考えている。特に、(1.14)式より、AがわかったときのBに関する確信度はAが分かる前のA \cap Bに関する確信度よりも小さくならないことがわかる。また、2つの確信度の比はAがわかったときの驚きの程度[P(A)]^{-1}に比例して増加する。

上記と同じような議論。こういう考え方をするのか。その思考が面白い。

次回に続きます。

*1:ふつうに「言語表現」という訳でいいような気がする