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Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

【研究会告知】連続的なリスクのどこに「線」を引くのか:米国EPAのPM2.5&オゾン基準値から見る"基準値ガバナンス"

リスク シンポなど

ジーザスアンドメリークリスマス!やっと論文執筆に充てる時間がでてきたと思ったらもう年末という今日この頃です。みなさまはお元気でしょうか?


ところで来年の1月23日(水)に以下の研究会を行うので告知いたします:

第30回リスク評価研究会(FoRAM)を下記の通り開催します。みなさまのご参加をお待ちしております。:


「連続的なリスクのどこに「線」を引くのか:米国EPAのPM2.5&オゾン基準値から見る"基準値ガバナンス"*1


日時:2013年1月23日(水)14:00〜17:30頃(このあと懇親会を予定しております)

場所:産総研つくば西事業所本館第二会議室


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講演(1)「連続的なリスクのどこに「線」を引くのか:米国EPAのPM2.5基準値改訂、その"正当化ロジック"を読む」
林 岳彦(国立環境研究所)


講演(2)「米国EPAのオゾン基準値の変遷を例に、疫学研究、諮問委員会、規制影響評価、判例などの役割、すなわち「基準値ガバナンス」を考える(仮題)」
岸本 充生(産業技術総合研究所
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今回は、PM2.5(微小粒子状物質)とオゾン(光化学オキシダント)という近年話題の(だけど伝統的な)大気汚染物質について、その環境基準値の策定という、アカデミックな科学(疫学調査や動物試験)と政策意思決定(基準値の策定)をつなぐレギュラトリーな科学の部分に焦点をあてて、その背景、ロジック、説明の仕方(これこそリスクコミュニケーション!)などついて、米国の事例を紹介し、議論したいと思います。あわせて日本の現状と向かうべき方向などについても議論できればと思います。


産総研の外部から参加される方は、前日お昼までに事務局(foram-desk-ml@aist.go.jp)ご連絡をいただければ、本館受付に事前登録しておきますので手間無く入ることができます。

FoRAMは、基本的に研究者や専門家の方を対象とした研究会となっております。参加ご希望の方は、事務局(foram-desk-ml@aist.go.jp)の方までお気軽にその旨事ご連絡ください。

ちょっとだけよ:内容のプレビュー

上記の研究会において、私は米国EPA(環境保護局)におけるPM2.5(PM2.5@Wikipedia)の基準値改訂についてお話いたします。

実は、PM2.5は現状の大気汚染物質の中ではそのリスクが比較的とても高いものとして知られています。例えば、米国におけるPM2.5の疫学研究のメタレビューをチラ見してみますと以下のようになっています*2

この表は、「長期間のPM2.5濃度が10μg/m3増加したとき」の健康影響に関する複数の疫学研究の結果をまとめているものです。(注:「PM2.5濃度が10μg/m3増加」というのは、ものすごくざっくり言うと、汚染レベルとしては日本の都市部において10年前の汚染水準に戻るくらいのかんじです→ http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=14869

上の表の"Effect Estimates (95CI)"というのは、「PM2.5濃度が10μg/m3増加したとき」の相対リスク*3の推定値(とその95%信頼区間)を表しています。例えば、一番上の行の"Zeger et al. (2008)"を見てみると、Outcomeは"All-Cause Mortality"、"Effect Estimate"は1.15程度になっています。これは、「PM2.5濃度が10μg/m3増加したときに、全死亡率*4の相対リスクが、1.15倍になっている」ということです*5

上記の図を見ると、全死亡で見たときの相対リスクは1.03〜1.2くらいの値をとっていることが判ります。


で、これらの値は、全死亡というもののベースレート(元々の率)の高さを考えると非常に高いリスクであると言えます。

仮に、(PM2.5の濃度上昇がない場合の)元々の年あたりの全死亡率を0.015(1500人/10万人)*6、相対リスクを1.03*7として考えてみましょう。このとき、「PM2.5濃度が10μg/m3増加したとき」の絶対リスクは1.03*0.015=0.01545で、絶対リスクの【年あたり】の増分は0.00045になります。つまり、PM2.5により【1年あたり】で10万人あたり45人が死亡している計算になります。

また、例えばこれを「生涯あたりのリスク」で考えるために「45年分*8」での絶対リスクを(最も単純に)積算すると、絶対リスクの増分は0.00045*45≒0.02となり、「(長期間のPM2.5濃度が10μg/m3増加したとき)生涯あたりでは100人に2人以上がPM2.5が原因で死亡する」という計算になります*9


上記はあくまでもかなりの概算*10ですが、PM2.5の基本的なリスクの高さのレベルがお分かりいただけたでしょうか。
(米国での直近のPM2.5の改訂の際にはパブコメが23万通も来たそうですが、その背景にはこのような基本的なリスクの高さがあるわけです)


はい。で、今回の研究会の私の発表ではその「PM2.5の米国における環境基準値の変遷」がテーマになります。


今回の議論のポイントとなるのは、PM2.5のリスクは「PM2.5の濃度上昇とともにリスクも連続的に上昇する(と考えられる)」というところです。

このようにリスクが連続的に存在する場合においては、(要介入/非介入の境を決定する)環境基準値の値にアプリオリな「正解」はなく、正解が無い中でどこかにエイヤッと「基準値」の線を引かなければなりません。果たして、米国EPA(環境保護庁)はどのようにその「線」を引いたのか。そして、その「線引き」についてどう説明(正当化)しているのか。


今回の私の発表では、その辺りのところについてみんなで議論できたら良いなあ、と思っています。


【2013/1/24追記:こちら→ http://d.hatena.ne.jp/takehiko-i-hayashi/20130124/1358985673 に発表資料をアプしました】



(*「その辺りのことについてみんなと議論してる暇があったらさっさと論文書け」とかいうツッコミはくれぐれもご自重ください)
.

*1:このタイトル勝手に私がつけました

*2:US EPAの「Integrated Science Assessment for Particulate Matter (Final Report)」 @ http://cfpub.epa.gov/ncea/cfm/recordisplay.cfm?deid=216546 のp2-15より引用

*3:相対リスク=(PM2.5濃度が10μg/m3増加してないときの死亡率/PM2.5濃度が10μg/m3増加したときの死亡率)

*4:ここで"全"というのは、死因ごとに分けずに全部まとめた死亡率、のことを意味しています

*5:表中のmeanは「調査対象地域における平均PM2.5濃度」のこと

*6:Quantitative Health Risk Assessment for Particulate Matter @ http://www.epa.gov/ttn/naaqs/standards/pm/s_pm_2007_risk.html のTable3-4 in p 3-60を参照した。ただしこの値は30歳以上の集団を対象としたものであることに注意

*7:上記に挙げられている研究の中で、もっとも質の高い研究と目されているKrewski (2009)( [https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=2&cad=rja&ved=0CEQQFjAB&url=http%3A%2F%2Fpubs.healtheffects.org%2Fgetfile.php%3Fu%3D478&ei=k-3YUOalDaf3mAXTsYHQAw&usg=AFQjCNHJfSg1tO65eTNS3Srj5GjIIZiuIw&sig2=6_6bPCCp9g965e_MPjjnqg&bvm=bv.1355534169,d.dGY:title=こちらから]DL可)からの値

*8:ベースレートの死亡率として30歳以上の集団を対象しているので、30→75歳の45年分で生涯辺りのリスクの概算とした。先進国では30歳まではそんなに死亡しないので、近似計算としてはそれほど問題ないと思うけど、どうかな?

*9:計算が合ってれば

*10:なので、この値は"このブログ記事内限りの推定値"ということで取り扱いの方よろしくお願いいたします