Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

Bayesianとは何か:2つの"Bayesian"

「Bayesianとは何か」についての話が混乱しがちなのは、「"Bayesian"という言葉が2つの微妙に異なることを意味しうる」ことにその一因にあると思われます。「統計学を拓いた異才たち」にもその辺りの混乱について

ベイズの異説を説明するのが難しいのは、数多くの異なるデータ解析法を持ち、加えてそれら解析法の使用に対して少なくとも二つの異なる哲学的根拠があるためである。まったく違うアイデアに同じ名称ーベイジアン(Bayesian)ーがつけられたようである。このベイズの異説の二つの定式化、すなわち「ベイズの階層モデル」と「個人確率」について考えてみよう。

と書かれています。


まあおそらく簡単に言ってしまえば、「ベイズの定理に基づく(階層モデル的)推論アプローチを使う=Bayesian」という見方と「個人確率を使う=Bayesian」という、事実上殆んど重なっているように見えますが、微妙に異なる二つの見方があるようです*1

以前、統計数理研究所のベイズの先生とお話していたときに、私が何度も「階層ベイズモデル」という言葉を使っていたところ、先生が「そもそもベイズモデルは全て階層ベイズモデルなんだからわざわざ『階層』ってつける必要はないんだよね」という旨のことを仰ったことがあり「あーそーなのかー」と目から鱗だったことがあります。今思えば、おそらくその先生は「ベイズの定理に基づく階層モデル的推論アプローチを使う=Bayesian」という見方ということなのでしょうか*2


さて、上記とは関係あるようなないような話ですが、統計的推論の基本的な分類は"個人確率に基づくBayesian"と"頻度的確率に基づくFrequentist"の二つに分かれるということでまあよろしいかと思います。

もう少し細かく学派的な分類すると、"ネイマン-ピアソンの仮説検定派*3 *4"、"Bayesian(ベイズの定理/個人確率派)"、"フィッシャー派(尤度主義*5)"の3つに分けることができるというのが私の理解です *6 。頻度的確率および標本抽出の考えに基づくという点ではネイマン-ピアソンとフィッシャーは同類となります。


どちらにしろヤヤコシイ話ですね。この辺りはちゃんとは私も良くわかっておりません!*7


*この記事は後からだいぶ改訂しました。いろいろ勘違いしていました!知ったかぶりするのは良くないことですね。反省します。今でも間違えてるところはありそうです。

統計学を拓いた異才たち―経験則から科学へ進展した一世紀

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入門ベイズ統計―意思決定の理論と発展

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*1:もしかしたら「経験ベイズモデルはベイズである」という人は「ベイズの定理を用いた階層ベイズ的推論アプローチを使う=Bayesian」 という見方であり、「経験ベイズモデルはベイズではない」という人は「個人確率を使う=Bayesian」という見方である、と分類できるのかなーと思っています。いやでも全然違うかも。

*2:というか、手法としての"ベイズモデル"と主義としての"Bayesian"が私の中では渾然一体となっておりますが、おそらくその先生の中では完全に峻別されているのでしょう。その辺りをもうちょっとはっきりと理解したいものです

*3:この派を頻度主義と呼ぶのが適切かどうかは正直良くわかりません。気持ちは分かりますが、やはり不適切ですかね。本エントリーと同日の別エントリーで言及したIan Hackingの書いていることを見ると、Inductive inferenceではなくInductive behaviorという視点から見れば、Neymanの立場は"頻度主義"的でありFisherはそうではないとは言えるのかもしれません。

*4:*20100319追記。google先生に教えてもらった統数研の江口先生の解説(http://www.ism.ac.jp/~eguchi/pdf/statinf1.pdf)では「頻度学派・尤度学派・ベイズ学派」という表記で分類していますね。

*5:フィッシャー派を「尤度主義」と表現するのは適切なのかどうかあまり自信はないです。ご注意を。私の中ではフィッシャーは杓子定規的な仮説検定の枠組みには乗らず、尤度そのものを基本としてケースバイケースで検討する立場、というイメージなのですが。

*6:たとえば、松原望「入門ベイズ統計」でもベイズ/ネイマン-ピアソン/フィッシャーの3派に分類しています。

*7:[http://en.wikipedia.org/wiki/Frequentist_inference:title=WikipediaのFrequentist inferenceの項]にはFrequentist inference に対するalternative approachとしてのフィッシャーにより提唱されたfiducial inferenceへの言及がありますね。Fiducial inferenceってなんでしょう?ちょっと探ってみます。