Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

蒲生(2010)「社会の意思決定を支えるリスク評価へ」の引用メモ

今日届いた日本リスク研究学会誌20(3)の、蒲生(2010) [p189-195]から。「大切だが定量化になじまない要素」についての言及のメモ(強調引用者)。なるほど。

一方、化学物質に限らず、多くのリスク事象は多様な側面を有していて単純に比較することはできないという批判は、ある程度もっともである。物質Aと物質Bは有害性の種類や有用性が同一ということはないし、物質Aのリスクと対策のための費用(お金)とは本質的に異なるものである。しかしながら、単に多様な側面を列挙したリストを睨みながらの議論を行うというのでは、その時々の雰囲気に流された議論になりがちである。たとえ合意形成の手続き自体の正当性を主張することはできたとしても、そこでの議論を他に応用したり、リスク管理の費用対効果などを客観的に人に説明したりすることは困難である。したがって、リスク事象が多様な側面を有するということは、むしろ、大切だが定量化になじまない要素について議論をつくすために、リスクを可能な限り定量化して、リスクを比較したり費用対効果を検討したりしておくべきだということを示唆していると考えるべきである。