Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

一人でも多くの人命を救うために:リスクトレードオフについて考えよう

今日はリスクトレードオフについて手短に書きたいと思います。

リスクトレードオフって?

リスクトレードオフは、一般的には

あるリスクを削減することが、また別のリスクを生み出したり、増大させること

と定義することができます。

リスクトレードオフの悲しき事例:DDT禁止とマラリア増大

【20201015注追加:林の本記事執筆当時の認識が間違っており、DDT禁止とマラリアには関連はありません。自戒のため記事自体の削除は行いませんが、以下の記述は参考にしないでください。大変申し訳ありません】

そのようなリスクトレードオフのもっとも悲しき事例のうちの一つは、おそらくDDTとマラリアの例でしょう。


この事例については、以下の中西準子さんの雑感の記事が詳しいので是非ご覧ください。

「こんなに悲しいグラフがあるんだ−DDTについて考える−」

簡単に要約すると、アフリカ・アフリカ地域においてマラリア対策に効果的に用いられていたDDTが、60年代における先進国での環境意識の高まりを受けて事実上使用禁止となったため、マラリアに直面する現地であるアフリカ・アジア地域においてマラリアが再興し非常に多くの命が失われたという事例です。

もちろん、上記の記事にもあるように、このマラリア再興の全ての原因がDDTの使用禁止にあるわけではないと思われます。しかし、このマラリア再興によってアフリカ・アフリカ地域において失われた命の絶対数を想像すると(上記の記事によると世界でのマラリアの罹患数は5億人/年、死者数は100万人/年であるらしい)、たとえDDTの使用禁止がその原因の全てではないにしても、その影響は甚大なものであったと推測されます。


現在の知見によれば、DDTの禁止措置によって削減できるリスク(その大部分が生態リスク)は、到底アジア・アフリカの現地におけるマラリア再興によるコスト(失われた人命の数)に見合うものではないことが分かっています。

DDTというリスクを避けることによって、DDTによって助けることができたかもしれない莫大な命が失われたというこの事例から、私たちは学ばねばならないでしょう。

一人でも多くの人命を救うために:リスクトレードオフについて真剣に考えよう

上記の事例では、先進国の人間が比較的小さなリスクを嫌うことにより、現地に甚大なリスクを呼びこむような非常に悲しい結果が生じてしまいました。

もちろん、アフリカ・アジア地域においてDDTの使用を事実上禁止としてしまった先進国の人々に悪意があったわけではないでしょう。一人でも多くの人命を救いたい、という思いは共通のものであったはずです。

それでも、悪意が全くなかったとしても、安全圏に居る人々が机上で憂慮するリスクの内容が、今現地の人々が実際に直面しているリスクの内容とかけ離れてしまっている場合には、小さなリスクを嫌うことでより大きなリスクを(それもまさに現地の弱者のもとに)呼びこむような結果になりうることを、この例は示していると思います。


もし今、あなたの頭の中がある特定のリスク要因にばかりに気を囚われているならば、深呼吸して次のことを考えてみませんか?

  • 今、守るべき弱者とは誰でしょうか? それはあなた自身ですか?
  • 今、それらの弱者が直面している一番リアルな「リスク」とは何でしょうか?
  • 今、その一番リアルな「リスク」を減らすためにあなたにできることは何ですか?


今、リスクトレードオフについて真剣に考えてみましょう。