Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

なぜ経済協力開発機構がリスク評価に関わるの?

今週は経済協力開発機構OECD)での会議のためパリに来ていました*1 *2。いま朝の6:00@ホテルなのですが、これから7:00には部屋をでてパリから成田に帰ろうと思っています。

今回はまあこういう機会でということで、なぜOECDが化学物質のリスク評価に関わっているのかについて少しだけ書きたいと思います。

OECDとは?

まずはOECDってなにそれおいしいの?というところから。

OECDについてwikipediaにはこう書いてありました(強調は引用者):

経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development, OECD)は、ヨーロッパ、北米等の先進国によって、国際経済全般について協議することを目的とした国際機関。本部はパリに置かれ、公用語は英語とフランス語。「先進国クラブ」とも呼ばれる。

OECD Tokyoのサイトには以下のようにあります:

経済協力開発機構OECD)は、民主主義と市場経済を支持する諸国が以下の目的のために活動を行っている機関です。

  • 持続可能な経済成長の支持
  • 雇用の増大
  • 生活水準の向上
  • 金融安定化の維持
  • 他国の経済発展の支援
  • 世界貿易の成長への貢献

こちらは日本の経産省のHPにある説明(OECDとは?):

(1) OECDの目的
 OECDは、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、1)経済成長、2)貿易自由化、3)途上国支援(これを「OECDの三大目的」といいます)に貢献することを目的としています。

これらの文章をみるかぎり、OECDの一義的な目的は世界の経済発展であり、なぜ一義的には環境問題である(ように思われる)化学物質のリスク評価に関わっているのかはなかなか分かりませんよね。

非関税障壁としての環境規制

なぜOECDが化学物質のリスク評価に関わっているのかの答えを簡単にいえば、要するに環境規制というものは非関税障壁となりうるからです。

環境省による環境白書には次のように書かれています:

先進国の経済問題の解決に主眼を置いているOECDが環境問題を取り上げるようになった背景として、OECDは、第1に先進工業国において環境問題が急激に大きな社会問題となってきていたが、環境の測定、分析に始まって政策の対応、考え方などがまだ未熟な段階で、その前進を図ることが各国に共通する緊急の政策課題となってきたこと、第2に環境問題は地球的規模の人口と資源のバランスなどの問題を含んでいたり、越境汚染が引き起こされたりする場合もあるなど国際性を持った問題であること、及び第3に環境規制のレベルのちがいなど各国の環境政策の対応のちがいが交易条件を変えこれが非関税障壁を生むこと、の3点をあげている。

例えば、ある国だけが化学物質の規制を強化しその化学物質を用いた製品の流通を禁止した場合には、その規制は事実上の非関税障壁としてはたらくことになります。とうぜん非関税障壁というのはときには死活問題ともなりうるものですので、基本的に自由貿易を是とするOECDがそのあたりの調整の役割を果たすことになっているわけです。

こんな事情もあり、「化学物質のリスク評価」というのはサイエンス・政治・外交・経済・思想がキレイごとではなく絡まりあったけっこうメンドクサイものであったりします。

OECDの勧告によって環境規制が改善することもあります

もしかしたら「OECDのやつらは経済脳だから環境を守ろうなんて気はないんだろう」と思われる向きもおられるかもしれません。しかし、OECDのおかげで環境規制が改善することも多々あります*3

例えば、00年代前半まで日本には「化学物質の(ヒト以外の)生物への影響」を考慮した法的な化学物質規制の枠組みがほとんどありませんでしたが、OECDの勧告(生物への影響も考えなさいよ、という)を取り入れる形で、日本にも「化学物質の(ヒト以外の)生物への影響」を考慮した本格的な規制の枠組みが整備されました。

以下参考資料:
OECD勧告と生態
勧告のPDF

これは日本社会にとってもとても良いことだと思いますし、個人的にも事実上この流れが今の自分の食い扶持につながっているという点でもとてもありがたいものであります。

OECDが実際にやっているのは"harmonization"

ちなみに、OECD自身が化学物質のリスク評価を手がけているわけではありません。OECDがやっているのは、加盟各国間でのリスク評価の考え方や手法のharmonizationと標準化に関わる部分です。

今回わたしが参加した会議もリスク評価のためのアプローチの国際的な"harmonization"に関わるものでした。


ところで今回とても印象的だったのが、今回のOECDの会議に国や地域の代表として参加している&発表をしている人間の半分以上が「民間のコンサルの人」という点でした。このあたりの科学と政治の関係のあり方は、日本・米国・欧州でかなり違うよなーというのはいつも実感させられるところです。


そのあたりの事情についてもいろいろ書きたいのはやまやまなのですが、そろそろメトロに乗り遅れそうなのでこのへんで終わりにします。(Au revoir!)



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*1:自分の発表自体は大丈夫だったけどディスカッションセッションでは爆死。私の英語レベルでは30人くらいいるなかでのディスカッションセッションは正直かなりキツかった。突然こちらに話題をふられてまさにQBK状態でした…orz。大変おせわになりました>K&Yさま

*2:関係ないけど日本から歯ブラシを持参するのを忘れたのでこちらのスーパーで歯ブラシを買ったのですが、歯ブラシのヘッドがどれもデカイ!磨いたかんじは割と良いと思ったのですが、日本にはこういうのないのなあ

*3:特に欧州にとっては環境規制を強化することには基本的にメリットが多いですし