Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」が面白すぎる(その3)

引用メモその3。

第2章「初期の試みとその難点」の第1節「トーマス・ベイズ」の最後の部分(p17; 強調引用者)。フィッシャーの先験確率(事前確率)に対する立ち位置がよく分かる。

このように、ベイズの導入した先験確率を表す式は、恣意的な要素を含んでいる。そうしてベイズは、疑いなくこの点にある程度気づいていたために、論文を提出することをためらったのであった。彼は球Wを用いる補助実験を導入して、形式的には曖昧さを除いた。第5章で、このような補助実験がときには実際に行われることを示す。


しかしながらより重要な疑問は、科学的な研究、ことに実験の解釈においてそれに相当する先験確率を表す式を代入する十分な理由があるかどうかということである。この実際的な問題には、決定的な、あるいは一般的な答えを与えることはできない。というのは、確かに妥当な先験確率というものが存在して、それを観察資料から知ることができるような場合を見つけ出し、あるいは構成することはできる。しかしながら、とくにあい対立する科学的な理論の確率が問題になっているときには、科学者が手にしうる資料を忠実に調べても、そのようなものを見出すことができない場合がよりしばしば生じる。