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Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」が面白すぎる(その11)

前回に引き続き、今回もいわゆるフィデューシャル推測の節。

前回の部分の引用の続きで、導出した\thetaの頻度分布の解釈についての議論になっていきます:

実験者が事前の知識なしに、実験の結果得られたTのある値にもとづいて追求している、\thetaの特定の未知の値にたいして、確率分布が適用できるかどうかは、これまで議論されてきており、確かに検討に値する。とくに、この形の論法を私がはじめて示した相関関数への適用(1930年)は、例題は適切であったが、私の説明は多くのなすべきことをなさずに残してきている。

ここは逆確率についての言及と思われます。ベイズの枠組みに依らず逆確率というものを議論しうるのか。

続き:

これまで述べてきた推理様式はすべて完全に演繹的である。だが、この例題は、帰納的推理のいくつかの必要な特性を紹介するために選んだものである。上で最初に述べた確率的命題は、ある特定の\thetaの値にたいする、多くの選ばれなかった標本において生じたかもしれない、Tの値全体について成立つものである。しかしながらこれはまた、\thetaのすべての値から得られるすべての対(T,\theta)の集まりについて成り立つことになる。ある実験者にたいする\thetaとTの値の対は、もちろん、この拡張されたあらゆる可能な対の集合に属している。そうして、この集合の中で、不等式
\theta > \frac{T}{2n}\chi^{2}(P)
を満足する場合の割合は、当然、はじめに選んだ確率Pに等しい。しかしながら34ページで論じた、1個の貨幣を投げるトバク者の場合のように、彼の事例があるはっきりした部分集合に属していて、その部分集合では不等式が成立つ場合の割合がP以外の値となる、ということもありうる。前に論じたように\thetaの分布についての事前の知識がないこと、これが特別な部分集合を識別することが不可能であることを示す。したがってトバク者が熟視するある1回の貨幣投げのように、一般確率が適用可能であることを保証する。

ここでは「あらゆる可能な(T,\theta)の集合」という概念的操作を経由して逆確率を根拠付けようとしている、という感じでしょうか。

さらに続き:

 事前の知識が利用可能ならば、適切な資料が除外されたということから上の論法は排除されたであろう。なぜならば、確定的命題を導くときには利用可能な公理の一部分だけから推測を行い他の部分を無視することも正当である。つまり利用可能な公理のある特定の部分集合だけにもとづいて、正しい議論を行うことが可能である。しかしながら、不確定な命題についてはこのような自由は許されない。この場合にはすべての資料を考慮することが本質的である。たとえ、検討の結果、データの一部が必要でなく、結果に影響しないということがわかるとしても、考慮しなければならない。

 ふたたび繰り返すと、事前の知識をもっていたいとすると、ベイズの論法が展開可能であるかもしれない。この論法によると、すべてのデータを利用して、推測度の論法の結果とは一般に異る事後分布に導くことになるだろう。実際ベイズの方法は、Tで定められた、したがって観測値の属する、対(T,\theta)の特定の部分集合における\thetaの分布を計算する。したがって推測度による論法を、ある特定の実際の実験に適用できることを完全に証明するには、それを特徴づける資料として、事前の知識の欠除ということの導入が本質的である。1930年、私が確率の計算にはじめて推測度の論法を提案したとき、この最後の点を認識していなかった。そのためにしばらくの間、この二つの方法で導かれた確率命題のあいだには論理内容に違いがあると思い込んだ。実際には、このような区別に何の根拠もない。

ベイズは特定の部分集合における逆確率の分布であり、推測度はそのような部分集合に依らない、というのが結局フィッシャーの立場のようです。おそらく。
このフィッシャーの推測度の数学的な問題については本書の素晴らしい訳者解説でも言及されているので、あとでその部分も引用したいと思います。

また次回に続きます。