Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

発表資料アプ:「比例ハザードモデルはとってもtricky!」

どもです。林岳彦です。ももカッパよりもアゲルちゃんのほうがいいと思います。


さて。

最近、某カジュアル系勉強会で、疫学研究などで頻繁に用いられる「比例ハザードモデル」をテーマに発表をしたのでその資料を晒してみます(資料内で用いているRスクリプト→ CoxPH.R 直

何卒よろしくです!

#次回は統計的因果推論ネタで、「因果関係がないのに相関関係があらわれるケース」についてまとめる予定です(現在執筆中)

(今回の発表で参考にさせていただいた比例ハザードモデルに関する資料のリスト)

【書籍】

生存時間解析―SASによる生物統計

生存時間解析―SASによる生物統計

what_a_dudeさんが挙げていた本。とてもわかりやすかったです。

生存時間解析

生存時間解析

最初にこの本を読んだらちょっと混乱しました。翻訳のせいもあるかもしれない。

【Web上の資料】

(1)what_a_dudeの日記(linkなど)
   「記事一覧」の検索窓から「比例ハザードモデル」で検索すると一連の記事が読めます。分かりやすいし面白いし数学的説明もちゃんとしています。

(2)統計学入門 11.4 比例ハザードモデル (link
   比例ハザードモデルの解説。いろんなサイトを見ているとだんだん理解が立体的になってきますよね。

(3)Coxの比例ハザードモデルについて --- 土居正明 (PDF
   一番やさしいレベルの解説かもしれない。最初はこれを読むのがオススメかも。

(4) Rと生存時間分析(link
   今回の発表におけるRでの解析はほとんどこの内容に依拠させていただきました。大変ありがとうございます。

(5)Cox回帰(比例ハザードモデル)--- Action Potentials: 閾値以下 (link
   Rでの解析例としてはここもオススメ。比例ハザード性の検証がきちんとやられてます。

(6)Survival Analysis in R - Statistics(link
   UCLAの講義資料らしい模様。今回のRでの解析ではこれも参考にしました。

オーマイガー:iPhone5を落としてガラスが割れたあとの修理段取りのメモ

こんにちは。林岳彦です。もし「ゆらゆら定食」ってのがあったらそれは食べにくいと思います(揺れてるから)。


さて。

やっちまいました。自宅内でズボンのポケットから取り出そうとしたときに、ポロッと。そしてガチャっと。

いやはや、もうこんなかんじですよ(こんな状態でも操作は可能でした):

ほんと、本格的に強く落ち込みました。ハルクホーガンがリングサイドから登ろうとする猪木にアックスボンバーを喰らわせたとき以来の衝撃でしたよ。


で、実際にiPhoneを破損すると多少なりともパニクるのですが、今後このような悲運に見舞われた方々のための不幸中の一助となりますように、『iPhone5のガラス破損→Appleサポートによる修理』の際の段取りについてメモっておきたいと思います。

(以下、私の環境により「ソフトバンク」の例になっていますが、たぶん手続きは基本的にauでも変わらないのかなあと思われます)

メモ:Appleサポートによる修理の段取り(*2013年3月中旬の事例)

(1) ソフトバンクショップに電話する

まずはiPhone5を購入した店に「落としてガラス割れちゃいました」と電話してみました。そしたら「こちらでは何もできないので、Appleのサポートの方に電話してください。番号はxxx-xxxxです」との返答。とりあえずAppleサポートの電話番号をゲットです。

(2) Appleのサポートに電話する(事前にシリアルナンバーを確認しておこう)

次にAppleサポートへ電話。最初はオペレータ音声での対応となり、5分くらい待たされたのち、Appleサポートの中の人に繋がりました*1

Appleサポートさんに「iPhone5を落としてガラス破損したので修理したい」とこちらの状況を伝えると、とりあえずiPhoneのシリアルナンバーを聞かれました(*なので、Appleサポートに電話する際にはシリアルナンバーを事前に確認しておきましょう*2)。

で、Appleサポートさんの説明によると:

  • ガラス破損の場合には基本的に新品交換となる
  • 私の居住地の場合には「郵送での対応」となる*3
  • 具体的な段取りは『ヤマト運輸が破損したiPhoneを自宅まで引取りに来てくれる』→『Appleの工場での破損確認』→『新品の交換品をヤマト運輸が自宅まで届けくれる』
  • 修理代金(諸々込)は20,801円(←「本体代」だと思えば安いが、「ガラス代」だと思うと高すぎてかなり凹む...)
  • 支払いはクレジット払いまたは代引き*4

私がiPhone5を破損したのは木曜日でしたが、その時点でのヤマト運輸の自宅引取り日時は最短で「2日後(土曜日)から指定可能」ということでしたので、土曜日の夕方の引取り指定にしてもらいました。

(3) iPhoneのバックアップを取る

ヤマト運輸による引取りに際して、Appleサポートさんから言われたことは:

です。何はなくとも、バックアップはしっかりとっておきましょう。あと、このときにバックアップ日時もちゃんとメモしておくと安心です。(ガラス破損の場合には"修理"ではなく"新品交換"となるので、後で中身を復元するためにバックアップを取っておくのは本当に強く大事です!)

(4) ヤマト運輸の人が取りに来てくれるので渡す

Appleサポートさんとの電話での予約時間通りに、破損から2日後(土曜)の夕方にヤマト運輸の方が引取りに来てくれました。

渡すときには「SIMカードなし・ケース類なし」の裸の状態で渡します。

(5) 代替の携帯をソフトバンクショップで借りる

携帯がないと不便ですが、修理中は無料で代替機を借りることができます。

最寄りのソフトバンクショップに行き、「iPhoneが修理中なので代替機をお借りしたいのですが」と伝えればあっさりと無料で貸してもらえます*5

携帯の代替機を借りるときには、以前に取り外したiPhoneのSIMカードを流用することになります(なので代替機でも同じ電話番号を使える)。忘れずにお店に持って行きましょう。

で、貸してもらえる機体はiPhone 4だったりするのですが、iPhone5の場合には特殊なSIM(マイクロSIM)を使用しているので、店のほうでSIM-マイクロSIMアダプターが出払っていて対応できない時もあるようです。なので、代替機を借りに行くときには、事前でお店に電話で問い合わせしておいたほうが良いかと思われます*6

(6) ヤマト運輸の人が届けてくれるので受け取る

土曜の引取りでしたが、3日後(翌週の火曜)の午前中には新品のiPhone5が届きました。

意外と早かった。

(7) 代替の携帯を返す

新品のiPhone5が届いたら、お店に代替として借りていた携帯を返しましょう。

(8) バックアップを復元する

新品のiPhone5が届いたらバックアップを復元しましょう(iOSでのバックアップからの復元方法)。復元の際のバックアップ元としては、引取りの前に行ったバックアップの日時のものを選んでくださいね。

バックアップでの復元でたいていのものは元通りに戻りますが、ソフトバンクのeメールなど一部の設定は再度やり直す必要があります(メールアドレスの設定方法)。

ちなみに:もし保険に入っていたら?

ちなみに私はiPhoneの保険の類には入っていませんでした。今更ながらiPhoneの保険を調べてみると:

あんしん保証パックとAppleCare+って両方入るべき?(費用比較表付き) - たのしいiPhone! AppBank

ベース料金として、Appleの提供する「Apple Care+」が2年で8,800円、ソフトバンクが提供する「あんしん保証パック」が2年で12,000程度(月額約500円)になるようです。

で、今回の私のケースのような、過失での全交換の場合、Apple Care+で4,400円、あんしん保証パックで3,120円ほどの追加料金がかかるようです(詳しくは上記リンク参照)。

なので、もし保険に入っていても今回のケースではどのみち2年総額で13,200円かかる(Apple Care+の場合)わけで、保険なしの場合の20,801円と比べると、壊す確率を考えると、まあけっこうビミョウな感じはしますね。

うーむ。次回はApple Care+入ろうかなぁ。。。どうしようかなぁ。。。

ちなみに2:今回の落下→ガラス破損に関する考察

ちなみに私、一応ケースもつけてたんですよね。これです:

薄くてスタイリッシュなのでけっこう気に入っていたのですが。私のiPhoneを護ってはくれませんでした、ね。

一応構造上も、普通に床に落としたときにガラス面が直接床面に触れるようなことはないように思われるのですが、当たりどころが悪かったのか、周りの金属部フレームへの衝撃が緩衝されきれずにガラス部に伝わってしまったようです。

ぐぬう!

で、今回、泣く泣くケースとガラス面強化グッズを増強しました(この辺りでまた地味に金が出て行くのです...):

実際につけてみると厚くて野暮ったいのは否めませんが、安心感はありました。

ていうか結論はこれですね:

「そもそもiPhoneを落とさないように気をつけましょう」

段取り等のまとめ

まとめます:

  • 手続きは意外と簡単かつスムーズでした(←主観)
  • ガラス破損の修理代は20,801円(というか修理ではなく新品と交換になる)
  • 破損→新品到着までの期間は一週間弱(例:木曜破損→翌週火曜日交換品到着)
  • 修理中の代替の携帯は無料で貸し出してくれる
  • 保険に入るかどうかはビミョウなところ
  • そもそも落とすな


ともあれ、上記のメモがみなさまのお役にたちませんように!(いやiPhone落として壊すとかなり落ち込むし手間と時間もかかるし万札もぴゅーと飛んでいくのでほんと痛いっす...)



.

*1:ちなみに電話をしたのは平日の昼休み時間

*2:シリアルナンバーはiPhone本体の裏側に記載されています

*3:付近に直接持込での修理対応が可能なところがないので

*4:私はクレジット払いを選択しました。多少気持ち悪いですが、電話口でクレジット番号を伝える形になります

*5:Appleサポートの方で修理手続きがちゃんと行われていることがおそらく前提

*6:私の場合、最初に電話したイーアスつくば店では「今アダプターがないので対応できません」と言われたので、研究学園店でお借りしました

(目次の予告)統計的因果推論ノート:「正しいセカイの切り取り方」

どもです。林岳彦です。道に倒れて誰かの名を呼び続けたことはありません。

さて。


自分の頭の中でそろそろ「統計的因果推論に関するエトセトラ」が繋がってきた感がある*1ので、一度棚卸のために(クオリティは未だ低いものになるかもしれませんが)エトセトラのひと通りについて書いてみたいと思いました。

だいたい目次は以下の通りになる予定です:

統計的因果推論ノート:「正しいセカイの切り取り方」(予定目次)

  • 統計的因果推論ノート1 そもそも"因果"って?:Hillの基準、ヒューム、反事実
    • 統計的因果推論ノート1補遺1 よくある確率概念の分類:主観的、客観的、あるいは間主観的な
    • 統計的因果推論ノート1補遺2 "可能性"の集合的理解:ケインズからコルモゴロフ、あるいは可能世界から確率へ
      • 統計的因果推論ノート1補遺2の補遺1 "交換可能性"を想定するということ:可能世界から見るロールズと公共政策
  • 統計的因果推論ノート2 問題設定:統計モデルと「正しいセカイの切り取り方」
  • 統計的因果推論ノート3 All you need is Fisher、あるいは因果推論としての実験計画法
  • 統計的因果推論ノート4 交絡は裏口から忍び入る:バックドア基準
    • 統計的因果推論ノート4補遺1 確率のレイヤーと因果のレイヤー:バックドア基準とAIC、あるいはシンプソンのパラドックス、そしてモデル選択
    • 統計的因果推論ノート4補遺2 異流派交流戦:バックドアに蓋をする合成変数としての傾向スコア
  • 統計的因果推論ノート5 相関関係から因果の向きを取り出す:トリオ・ザ・因果

一年くらいかけてボチボチと書いていけたらなあ、と思ってます。


あと、前回の記事へのコメントで、壇蜜は「つちへん」で檀ふみは「きへん」だということを教えていただきました。おかげで、次回からは両者を見分けることができそうです。ありがとうございました!


.

*1:なのでいま個人的にはワクテカなんすよね

何人いれば適切なの?:学術知と政策とテクノクラート

どもです。林岳彦です。いまだに壇蜜檀ふみの区別がつきません。

さて。


1月はずっとPM2.5の基準値に関するUS EPA(米国環境保護庁)の文書を読んでいました。で、それらの膨大な文書群(総計約5000ページ!)をチェックしていく中で、「学術知と政策を繋ぐセクションにおける日米のマンパワーの差」について改めて痛感せざるをえない部分がありましたので、今日はその辺りについてつらつらと書いて行きたいと思います。

「経済学」と「政策」のあいだ:日本のマクロ経済モデルの"中の人"の数

さて。どういうところから話を始めようか迷ったのですが、とりあえず経済学界隈の話から始めてみようかと思います。

SYNODOSの「日本を変える知」という本の中で:

日本を変える「知」 (SYNODOS READINGS)

日本を変える「知」 (SYNODOS READINGS)

経済学者である飯田泰之さんが「学術知と政策を繋ぐマンパワー」について語っているところを引用してみます(69pより引用、強調引用者):

私はいま、経済社会総合研究所という内閣府の部署で、日本のマクロ経済モデルの現代化に関する研究・開発グループに所属しています。自分で言うのもなんですが、結構重要な仕事だと思います。


それを何人でやっているかというと、専任が2人、任期付専任が2人、私のような客員が3人で、あとは外部有識者の協力という体制です。従来型のマクロモデルの改善に当たっている人数はもっと少なくて、しかも担当者はしょっちゅう異動で変わるので知識が蓄積されない。マクロモデルを作成しているのは政府では内閣府と日銀くらいですが、日銀も内閣府よりやや大きいグループが二つ三つあるくらいのようです。


この状況を海外の中央銀行関係者に説明してもたいていは信じてくれません。たとえば、カナダでは中央銀行の部局ごと、そして省庁ごとにマクロモデルを開発しています。それぞれのグループに博士号を持ったエコノミストが何人も常駐し、リサーチアシスタントを使ってマクロモデルを開発しています。政策リサーチが必要だという認識が強いんです。アメリカに至っては、もう数えきれない数のシンクタンクが実証的な政策分析をしている。


それに比べて、世界第2位の経済大国でマクロ政策の大規模な分析・予想ツールを作っているのが、合計しても20人程度だなんて、考えただけでも恐ろしいですよ。

はい。

みなさまは、この:

「アメリカに至っては、もう数えきれない数のシンクタンクが実証的な政策分析をしている」
「世界第2位の経済大国でマクロ政策の大規模な分析・予想ツールを作っているのが、合計しても20人程度だなんて、考えただけでも恐ろしい」

という文章を読んでどう思いますか?


「考えただけでも恐ろしい」でしょうか?


もしかするとこの文章を読んで新鮮な驚きを感じる方も多いのかもしれませんが、あの、これ、日本の公的セクション系で働くひとにとっては実に「あるある」な話なんですよね。。。

「環境科学」と「政策」のあいだ:US EPA環境省の"中の人"の数

では、私にとってもっと身近な例として、環境科学関連の事情を見てみたいと思います。

単純に、US EPA(米国環境庁)と日本の環境省の人数を比べてみます。

実はこんなかんじになっております:

US EPAが17359人、環境省が1235人です*1。人員数で10倍以上の差があります。

ただし、この比較はフェアではないかもしれません。なぜかと言うと、US EPAは行政組織であると同時に、研究機関も兼ねているからです。日本の感覚で言うと「US EPA = 環境省+国立環境研究所」というのがより実態に近いかもしれません。

では、国立環境研究所の人数も加えてみましょう(人数のソース):

はい。国立環境研究所の実質的な人数は390人程度なので*2、それほど人数は変わりません。

どちらにしろ、人員数は10倍程度の差があります。


もちろんUS EPAと日本の環境省では業務内容に違いがある(かもしれない)ので、単純な人数比較は厳密には余り意味がないかもしれませんが*3それにしてもかなり人数に差があるわけです。


そうなんすよ。

プレーヤー側から見える景色:「野球場でオレひとりぼっち」的な不安

で、私の経験からは、このような彼我の「マンパワーの差」を実感する機会は普段はそんなにありません。


だがしかし、国際会議や国際学会などで欧米の公的機関系の中の人に会ったり、欧米のテクノクラート*4たちが本気で作った文書を読んでしまったりすると、やはりその圧倒的な彼我のマンパワーの差に正直目眩がします。

なんかですね、自分の感覚が「野球場のだだっ広いフィールド全体を全部ひとりで守ってる」という感覚だとすると、欧米のテクノクラートは「野球場のフィールド全体に9人、それぞれの領域に特化した高い専門性を持った人員がちゃんと配置されていて、それぞれの領域をがっちり守っている」ような感じなんですよね。で、そういう実情を目の当たりにしちゃうと

「あれ??? もしかして野球(テクノクラート)って本来そういうスポーツ(存在)だった!?」

的なものすごく根源的なカルチャーギャップおよび不安を感じてしまうんですよね。「圧倒的(に手薄)ではないか我が軍は」的な。テラヤバス(悪い意味で)的な。


なんというか、欧米でも日本でも「いわゆる"テクノクラート"が『学術知と政策』の間を繋いでいる」と言えるとは思うのです。でもその一方で、「欧米におけるテクノクラートと日本におけるテクノクラート」の量感って、 やっぱり「壇蜜檀ふみ」の量感くらいには違うよね、という感覚も現場にはごくフツウにあったりするわけです。

欧米では「民間のテクノクラート」の層もまた分厚い

欧米と日本でのテクノクラートの違いに関して、もう少し述べてみたいと思います。(*ここからは、"テクノクラート"の語を「高度な学術的専門知を活かすことを求められて公共政策/行政に関わる人たち」という広義の意味で使っていきます)

実は、国際会議などに出たときに欧米と日本の差を最も感じるのは、公的セクション以上に、民間のコンサル/シンクタンク企業における「人材の厚さ」と「存在感」における差だったりします。欧米では、それらの企業に在籍する専門家がとてもディープに「学術的専門知を活かすことを求められて公共政策/行政に関わって」いたりします。というか、関わっているどころか事実上「胴元として主導」していることもあります*5

日本だと、一般的にはコンサル企業は「官公庁の下請け」的な位置づけのことが多いように思います。一方、欧米ではそれらのコンサル企業と官公庁の「中の人」がしばしば入れ替わったりしてることもあり、学術知と政策を繋げる業務における「位置づけ・専門性・人材の厚さ」の全てでコンサルが官公庁に勝るとも劣らない実力と存在感がもっていたりします*6


というわけで、公的セクションのみならず民間においても、欧米と日本における「学術知と政策を繋げる人材」の状況は「壇蜜の誕生日パーティと段田男の誕生日パーティ」の状況くらい大きく異なるわけです。

欧米の「テクノクラート支配」:"PhDリーグ"の存在

はい。では次は、欧米と日本における「テクノクラート支配」の違いについて考えてみたいと思います。


ざっくり言うと、近代以降の社会はとても複雑なので政策遂行において高度に専門的な知識が必要になることが多いです。その結果、(意思決定の"正統性"を持つ政治家や市民ではなく)テクノクラートが事実上の政治的決定を担いがちになります。そのような状況に起因する実害が大きくなると、「テクノクラート支配による弊害ガー」という声が出てきます(←今ココ)。

で、現代社会においては欧米でも日本でも文言としては同じく「"テクノクラート支配"が起きている」と言えるとは思うのです。ただし、欧米のそれと日本のそれはやっぱり「壇蜜写真集と仏壇写真集」くらい内実の異なるものであるように思われます。(*以下からは基本的に私の観測範囲に依る話でありエビデンスが不十分なので話半分に聞いてくださいね)

何が異なるかというと、欧米では高度に専門的な政治的決定に関して「政・官・学・産・民」における比較的広い範囲の利害関係者が関与できているように思います。なので、その意味での「権力の偏在」は、欧米では比較的弱いと言えるかもしれません。

但し、これってもう少し細かくというか意地悪く書き直すと、実際に関わることができるのは『「政・官・学・産・民」の様々な利害関係者(*但しPhDホルダーに限る)』だったりするんですよね。。。立場としてはいろんな方面のアクターが参加できるのですが、実質的な参加条件として「PhDホルダーであること」というのがわりと強固にあり、その意味で、学術知の担い手としての「PhDホルダー」に権力が偏在している、とは言えるのかなぁと思います。

また、このような状況を前提に、政・官・学・産・民がPhDホルダーを"用心棒"として採用することにより、政・官・学・産・民において「テクノクラート」の分厚い層が形成されてきているという側面もあるのだと思います。


一方、日本ではそもそもテクノクラート的な業務をしている人の中で博士号を持っている人は寧ろマイノリティだと言えるでしょう*7。なので日本には、欧米の"PhDリーグ(PhD/博士号を持っている人以外が議論に参加することが基本的に前提とされていないような場所/領域)"のようなものはありません。むしろ、先日の麻生財務相の「日銀総裁に学者はふさわしくない」発言に典型的に見られるように、日本では学術知よりも素人知の方が(善かれ悪しかれ)尊重される傾向があるように思います。

その意味で、日本の場合には、「テクノクラートへの権力の偏在」と言った場合にはどちらかと言うと、「政・官・学・産・民」の「セクター間での権力の配分」における「偏在」の意味が比較的*8強いのかなぁ、と思います。

PhDリーグにおける「学術的disciplineによる支配」

で、様々な立場を代表するテクノクラートたちによる"PhDリーグ"が形成されて、その中で"(サブ)政治"が回るようになって何が生じるかというと、良くも悪くも「学術的disciplineの支配」みたいのが生じてるのかなあと思います。(*ここでの「学術的disciplineの支配」というのは「法の支配」のニュアンスで理解いただければと思います)

欧米の"PhDリーグ"の中ではいろんな立場からのシュートな論戦が起こりうるのですが、"PhDリーグ"における基本的ルールとしての「最初に言っておくが学術的におかしいことはNGだぜ」という"掟"はわりと強いように思います。その"掟"によって、各自が持つ政治的思惑/ポジショントークの暴走に対して一定の歯止めがかかっているように思います*9


一方、日本の場合には層としての"PhDリーグ"というものがなく(そもそも"リーグ"を形成できるだけの人数がいない!)、その結果としてテクノクラートによる「学術的disciplineの支配」の機能も弱いように思います。なので、わりと学術的におかしいことも政治的意向(というか単に少数の「声の大きい人」の意向)によってまかり通ってしまう傾向が強いのではないでしょうか。

地味だけど重要な問いとして:「何人いれば適切なの?」

はい。


では、最後にまた「人数」の話に戻って来たいと思います。

本記事の最初の方で、US EPAと日本の環境省の人数が10倍以上違うという話をしました。

さてさて。では、果たして、そもそも環境省には「何人くらいいるのが適切」なんでしょうかね?


人口比を考えれば、日本の環境省もUS EPAの1/3くらいの人数(6000人くらい)は居てもおかしくないでしょうか? あるいは寧ろ、人口が小さいからといって「対応しなければいけない問題の数」というのは単純に比例して減少するようなものではないので、US EPAと同じくらいの人数がいても良いのだ、という考え方もあるかもしれません。

あるいは逆に、テクノクラティックな業務のクオリティは人数には比例しないので、人数は今よりももっと少なくても良いのだ、という考え方もありうるのかもしれません。実際に、公務員の定員削減により官庁や政府系研究所の人数は着実に減らされてきていますし。


で、やっぱり、結局のところ、この「そもそも何人くらいいるのが適切なの?」という問いにはアプリオリな「正解」はないのだと思います。

でも、この問いって地味だけどとても重要だと思うんですよね。「官庁(および広義のテクノクラート)の中の人が少なすぎ」というのは、高度な学術的判断を伴う政策・行政の機能不全に繋がりうるひとつの明らかな「リスク要因」ですし、その「リスク」を我々(市民)はどこまで許容するべきなのか、というのは真剣に考慮に値する問いなのではないでしょうか?

(例えば、原発事故の前後で原子力規制委員会などが明らかに機能していなかった点を省みるにあたっては、この「そもそも原子力規制委員会には何人いるのが適切なの?/適切だったの?」という問いも主要な問いの一つとしてあってしかるべきだと思うんですよ)

まとめ

はい。というわけで今回も長くなってしまいました。

今回のキモを短くまとめてみます:

  • 日本では学術知と政策を繋ぐ役割を担う「中の人」の数がとっても少ない
  • プレーヤー側から見るとやっぱり正直不安だったりします
  • 欧米では(善かれ悪しかれ)「PhDリーグ」による「学術的disciplineによる支配」が機能しているっぽい
  • 「何人いれば適切か?」というのは地味だけどとても重要な問いだと思うよ
  • 壇蜜檀ふみは違う


はい。


うーむ今回はあまりとりとめないエントリーになってしまったような気もしますし、エビデンスに欠ける感想文的な話に終始してしまったような気もしますが、まあその辺りは割り引いてご理解いただければ幸いです(ども申し訳ない)。



(次回のエントリーからはしばらく「統計的因果推論」周りのエトセトラについてガッツリ書いていきたいと思います)

*1:*但しソースはwikipedia環境省は定員数ではなく2011年の職員数

*2:職員255人+ポスドク等契約研究員135人

*3:ちなみに国立公園は日本では環境省の管轄ですが、米国では内務省の管轄です

*4:官僚や政府系研究所で専門知を活かして公共政策/行政に関わる人たち

*5:例えばこの時のOECDの会議もそうでした→[http://d.hatena.ne.jp/takehiko-i-hayashi/20110909/1315544002:title=過去記事]

*6:もちろん場合にもよりますが

*7:研究機関にいる人は殆ど持ってるけど、霞ヶ関にいる人は殆ど持っていない

*8:欧米と比較的した場合ね

*9:本当のところはよく分からんけど

発表資料アプ/連続的なリスクのどこに「線」を引くのか:米国EPAのPM2.5基準値改訂、その"正当化ロジック"を読む

こんにちは林岳彦です。ここ数ヶ月の「朝7時55分のもこみち」と「朝8時10分あたりのもこみち」の落差は大魔神佐々木のフォークといい勝負だと思います。


さて。

今回は昨日のFoRAM研究会での発表資料をアップしてみます*1

研究会当日はこのスライド資料を見ながらiPadで適宜拡大+書き込みながらプレゼンしたので、このスライド資料だけをこの形で見せられてもよくわからないかもしれませんが、とりあえず「こういうかんじの話をしましたよ」というご報告まで。


ちなみに昨日の研究会の案内文は以下(もうちょっと詳しい案内はこちら):

「連続的なリスクのどこに「線」を引くのか:米国EPAのPM2.5&オゾン基準値から見る"基準値ガバナンス"」

日時:2013年1月23日(水)14:00〜17:30頃(このあと懇親会を予定しております)

場所:産総研つくば西事業所本館第二会議室
===

講演(1)「連続的なリスクのどこに「線」を引くのか:米国EPAのPM2.5基準値改訂、その"正当化ロジック"を読む」
林 岳彦(国立環境研究所)

講演(2)「米国EPAのオゾン基準値の変遷を例に、疫学研究、諮問委員会、規制影響評価、判例などの役割、すなわち「基準値ガバナンス」を考える(仮題)」
岸本 充生(産業技術総合研究所

===
今回は、PM2.5(微小粒子状物質)とオゾン(光化学オキシダント)という近年話題の(だけど伝統的な)大気汚染物質について、その環境基準値の策定という、アカデミックな科学(疫学調査や動物試験)と政策意思決定(基準値の策定)をつなぐレギュラトリーな科学の部分に焦点をあてて、その背景、ロジック、説明の仕方(これこそリスクコミュニケーション!)などついて、米国の事例を紹介し、議論したいと思います。あわせて日本の現状と向かうべき方向などについても議論できればと思います。

ちなみに「ていうかPM2.5って何?」という方は是非こちらをどうぞ(リンク集もあります):

PM2.5の基礎情報:その定義と発生源と環境中濃度と健康影響と基準値とYシャツと私(v1.2版) - Take a Risk: 林岳彦の研究メモ


#今後ちょっとまた暫く更新が止まるかもしれませんが、何卒よろしくメカドック >みなさま


.

*1:おかげさまで大変盛況でした

PM2.5の基礎情報:その定義と発生源と環境中濃度と健康影響と基準値とYシャツと私(v1.2版)

こんにちは林岳彦です。はじめて買ったCDは「種ともこ」です。


さて。

私はここ最近は来週のリスク評価研究会での発表のために、PM2.5関連のいろんな文書を読んでました。

ちょうどそんな折、中国のPM2.5汚染がホットなニュースになっているようなので、もののついでに「PM2.5」についての情報をつらつらとまとめてみようと思います。(もし図が小さすぎる場合にはクリックしてみてください)

(ひとくちで言うと、 PM2.5は濃度としてはおそらく1970年代(高度成長期)をピークとして後は一貫して低下するようなある意味"古典的"な汚染物質なのですが、現状でもそのリスクは低くはない、というかんじの物質です)

【編集注:2012/1/18の21時くらいに発生源の項および資料リストをupdateしてv1.1としました】【編集注2:2012/2/5に1970年代のSPM濃度データとして吉野(2012)からの引用を加えてv1.2としました】

PM2.5って何すか?


PM2.5とは、粒径が2.5μm以下の粒子のことです。上の図では髪の毛とP2.5の大きさを比べていますが、だいたい髪の毛の太さの30分の1くらいですね。花粉(Pollen)が10μmくらいなので、花粉よりもさらに1オーダー小さいかんじになります。

サイズが問題なの?


サイズが問題です。2.5μm以下だと鼻や喉でトラップされずに気管方面に直接入り込んでしまい、健康に影響が出やすくなります(後述)。

PM2.5の中身(成分組成)は?


PM2.5の成分組成は場所により、また時により異なります。(少なくとも日本の場合には)多くの場合には概ね上図のような割合比で、EC(元素状炭素)、OC(有機炭素)、NO3イオン、SO4イオン、NH4イオンなどから構成されます。

おそらく「成分ごとに毒性が異なる」可能性も高く、そのような観点からの研究も盛んにされているのですが、未だあまり明確なところは良くわかっていません(けっきょく粒径が一番クリティカルな要素なのかも?)。

PM2.5はどうやって発生するの?



PM2.5の内訳を大きく分けると(1)燃焼等の際に最初から粒子として発生し直接大気中へ排出されるもの、(2)大気中においてNOxやSOxなどの反応によりガスから生成されてくる粒子、の2つに分かれます(上図参照)。前者を一次生成粒子、後者を二次生成粒子と呼びます。PM2.5の発生源としてはこのどちらも重要です。

【*v1.1版でこのパラグラフ追加*】ちなみに人為的影響の無い(少ない)地点でもPM2.5濃度は5〜10μg/Lm3ほどはあるようです。(つまり、5〜10μg/Lm3程度は自然発生源由来と解釈できます→ 手島 2010 *1

一次粒子の発生源には少し意外なものもあります。発生源(と目されるもの)におけるPM2.5の濃度を見ていきましょう:



「燃焼由来のPM2.5」の発生源として、廃棄物の焼却炉を思い浮かべる人も多いかと思います。しかし、上図から分かる通り、現在(H20調査)は廃棄物の焼却炉からは殆どPM2.5は出ていません(70μg/m3程度)。

これは昔からそうであったわけではなく、ダイオキシン対策のために焼却炉が高性能化したために排出が少なくなったものと思われます(ぱちぱち)。H12調査でとH20調査での「ばいじん」を比較すると、高性能化前後での違いをうかがい知ることができます。

一方、管理されていない燃焼からはけっこうな量のPM2.5が出ているようです:


この図によると、「野焼き」のPM2.5は「15000μg/m3」程度のようです。(実際に、伏見ら(2011)の総説で言及されている研究(Hagino et al. 2006)では、冬期の埼玉におけるPM2.5中の全炭素に対して野焼きが12〜55%(平均31%)寄与していると推定されているそうです*2

室内での例を見てみると:


家庭の厨房(つまり調理)でも「700μg/m3」程度のPM2.5が発生しているようですね。調理の際にはPAH(ベンゾピレンなど)なども発生しますし、できるだけ換気を心がけたいものです。

【*v1.1版でこのパラグラフ追加*】 上野(2010)によると、2008年度の都内17か所での冬期の調査にもとづく計算からは次のような発生源別寄与割合が推定されたようです:


2次生成粒子が6割くらいを占めているようですね*3。自動車排ガスの寄与は全体の16%ほどになっています。


#中国からの影響なども含めて発生源についてのさらなる詳細を知りたい方は、伏見ら(2011)上野(2010)樋口(2010)の御一読をオススメいたします!

環境中のPM2.5濃度はだいたいどうなってるの?

まずは長期のトレンドを探ってみましょう:


この図は、SPM(粒径が10μm以下の浮遊粒子状物質)とPM2.5の年平均値の経年変化を示したものです。ここ30年の間にSPM濃度が着実に減ってきていることが分かると思います。

2000年以前のPM2.5の測定データはありませんが、ザックリと考えて、SPM濃度の0.8倍くらいがPM2.5濃度になるという対応が概ねあるので、1980年のPM2.5濃度(年平均)はだいたい「35-45μg/m3」くらいであると推測できます。SPMのグラフの傾きを見ると、1970年代のPM2.5濃度は高いところ(工業地帯など)では年平均濃度で「60μg/m3」以上あったとしても何ら不思議ではないでしょう(*憶測*)。

現状のPM2.5の年平均濃度は「15-20μg/m3」くらいなので、おそらくPM2.5濃度は1970年代より相対的にはかなり減っているものと思われます。(が、ご存知の通り、お隣の中国が未だ日本の高度成長期的な状態なので、なかなか大変です)

【*v1.1版での追記*】 上野(2010)内のグラフを見ると、都内の自排局の場合には1990年にもかなり高いピーク(SPM濃度で70μg/m3程度)があるようです)


【*v1.2版でこのパラグラフ追加*】 吉野(2012)に、00年代中盤の中国と70年代の日本のSPM濃度*4の図があったので追加で引用しておきます:


1974年のデータを見ると、大田区、北九州市でSPMの平均濃度が90μg/m3に達していることが分かります。0.8倍換算で考えると、これらの地域では1970年代のPM2.5濃度は年平均で70μg/m3くらいあったと考えても何ら不思議はなさそうです。【*v1.2で追加されたパラグラフはここまで*】 


もう少し短期のトレンドも見てみましょう:


この図は2001-2008のPM2.5の年平均値(の平均値)の経年変化です。黒四角が非都市部、白丸が都市部、黒三角が自排局(自動車の影響が強いと思われる測定地点)になります。

現状では、だいたい都市部と自排局が「20μg/m3」、非都市部が「15μg/m3」くらいになっています。

トレンドを見ると自排局の濃度が着実に下がっていることが分かります。これは、 ディーゼル規制などにより、自動車由来のPM2.5が少なくなったためだと思われます(ぱちぱち)。(ちなみに80年代以前とは異なり、現在では、自動車からの排ガス由来のPM2.5はそれほど多くないそうです→ 上図の発生源寄与率の推計では自動車由来は全体の16%)

最後に、日変動も見てみましょう:


この図は青梅街道におけるPM2.5濃度の日変動を示したものです。低い時は「10μg/m3」、高い時は「60μg/m3」程度の濃度になっていることが分かります。

こういう大きな変動は、もしかしたら環境データを見慣れていない人は驚かれるのかもしれませんが、大気中や河川中の環境中濃度ってけっこうこれくらいは普通にばらつくものだったりします。(わりと高度なことをサラッと書きますが、大気や河川中などで起こりやすい拡散濃縮過程での誤差影響は相乗的に効くので、濃度分布が対数正規分布的になりやすいのです)

また、上図の値は24時間平均値ですが、もし1時間平均値のデータを見てみれば、値は当然もっともっと大きな範囲でばらついているはずです。(そのため「1時間平均値」と「24時間平均の基準値」を比較すると、単に通常のばらつきの範囲内の変動でも、「1時間平均値」がその「24時間平均の基準値」を大きく超えるケースはフツウに頻繁に起こりえます)

PM2.5は健康に影響はあるの?

米国EPA(環境保護庁)が2009年にまとめた科学レビューの結論は以下のようになっています:


短期・長期曝露の影響ともに死亡率(Mortality)および心臓血管系への影響*5(Cardiovascular Effects)に関しては「因果的影響あり(Causal)」、呼吸器系への影響に関しては「因果的影響がありそう(likely to be causal)」という判定になっています。

一方、がん(Cancer)に関しては「示唆的(Suggesstive)」に留まっています*6

影響の大きさについての疫学結果も見てみましょう:


この表は、「長期間のPM2.5濃度が10μg/m3増加したとき」の健康影響に関する複数の疫学研究の結果をまとめたものです。

上の表の"Effect Estimates (95CI)"というのは、「PM2.5濃度が10μg/m3増加したとき」の相対リスク*7の推定値(とその95%信頼区間)を表しています。例えば、一番上の行の"Zeger et al. (2008)"を見てみると、Outcomeは"All-Cause Mortality"、"Effect Estimate"は1.15程度になっています。これは、「PM2.5濃度が10μg/m3増加したときに、全死亡率の相対リスクが、1.15倍になっている」ということです。

上記の図を見ると、全死亡で見たときの相対リスクは1.03〜1.2くらいの値をとっていることが判ります。これは、ものすごくザックリ言うと*8、だいたい「長期的にPM2.5濃度が10μg/m3増加」すると「100人の死亡者がいたらそのうちの3人から20人くらいがPM2.5が原因で死亡してるはず」ということになります*9


この潜在的なリスクはかなり高いものであると言えます。(現状の環境中化学物質の中では屈指*10の高リスク物質だと思います)


(*ちょっと「但し書き」を書いておくと、上記に示した疫学研究は米国/米国人を対象としたものなので、日本のケースに上記の研究結果がそのまま当てはまるかどうかについては一定の留保が必要になります。例えば、米国人は心臓血管系の疾患のベースレートが高いので、心臓疾患系の死亡リスクが日本よりかなり高い可能性があります。その辺りの議論については中央環境審議会(2008)微小粒子状物質環境基準専門委員会報告をご参照ください*)


#PM2.5の健康影響に関する科学的知見の詳細を知りたい方はとにかくUSEPA(2009)Integrated Science Assessment for Particulate Matterをオススメいたします(*全1070ページもあるけど!)

PM2.5の環境基準値はどうなってるの?

そろそろ疲れてきたのであっさり書きますが:

  • 日本:年平均値15μg/m3;24時間平均値35μg/m3
  • 米国(2012/12/14に改訂):年平均値12μg/m3;24時間平均値35μg/m3
  • EU:年平均値25μg/m3*11
  • WHO:
    • (暫定目標1)年平均値35μg/m3;24時間平均値75μg/m3
    • (暫定目標2)年平均値25μg/m3;24時間平均値50μg/m3
    • (暫定目標3)年平均値15μg/m3;24時間平均値37.5μg/m3
    • (大気質指針)年平均値10μg/m3;24時間平均値25μg/m3

WHOは各国の内情に合わせて異なる目標値を用意しています。ざっくり言うと、中国は目標1(を遠いゴールとして目指す)、EUは目標2、日本は目標3、米国は「目標3と大気質指針のあいだ」くらいの現状になっています。

ちなみに、米国の最近の基準値改訂については来週のリスク評価研究会で発表する予定です。

PM2.5資料のリンク集(むしろここがメイン)

最後に、これからPM2.5について調べたい方々に向けての助けになるようリンク集を載せておきます。【v1.1での追加を赤で示しました】

全般:

    • 東京都環境局HP 微小粒子状物質(PM2.5)対策(←HP内に資料多数)(link
    • 東京都環境局シンポジウム(2010)微小粒子状物質(PM2.5)の現状と今後の課題link
    • 日本自動車工業会 (2011) 微小粒子状物質:SPMからPM2.5へ(link
    • 中央環境審議会大気環境部会(2008)微小粒子状物質環境基準専門委員会報告(link
    • 東京都微小粒子物質検討会報告(2011)(link
    • USEPA(2009)Integrated Science Assessment for Particulate Matter(link

発生源関係:

    • (*オススメ)東京都微小粒子物質検討会報告(2011)(link
    • 上野(2010)都内のPM2.5環境の現状と発生源調査の状況についてlink
    • 樋口(2010)東京都PM2.5総合調査の経過と今後の課題についてlink
    • 伏見ほか(2009)「PM2.5の実態解明に向けて ー 最近の研究と今後の課題 ー」(link
    • 微小粒子状物質(PM2.5)等発生源調査結果報告書(2011)(link

健康影響:

    • (*オススメ)新田(2010)PM2.5 の健康影響と環境基準(link
    • 大気汚染に係る粒子状物質による長期曝露調査検討会 (2009)大気汚染に係る粒子状物質による長期曝露影響調査報告書(link)
    • 中央環境審議会大気環境部会(2008)微小粒子状物質環境基準専門委員会報告(link
    • 中央環境審議会大気環境部会(2008)微小粒子状物質の定量的リスク評価手法について(link
    • (*オススメ)USEPA(2009)Integrated Science Assessment for Particulate Matter(link
    • Krewski et al. (2009) Extended Follow-Up and Spatial Analysis of the American Cancer Society Study Linking Particulate Air Pollution and Mortality (link

基準値関係:

    • (*オススメ)新田(2010)PM2.5 の健康影響と環境基準(link
    • 欧米における粒子状物質に関する動向について (link)
    • 欧州における新大気質に関する指令について(link
    • 中央環境審議会大気環境部会(2008)微小粒子状物質環境基準専門委員会報告(link

てゆうか

書いてみたら思ったよりだいぶ長くなっちゃいました。誠にありがとうございます。。>ここまで読んでくれたみなさま

(Tシャツと私)

*12
.

*1:あ、あの手島さんじゃないすか!(今気づいた)

*2:ここ孫引きなので自信ない

*3:2次生成の過程はとても複雑で不明な点が多く、なかなか明確に有効な対策がないので難しいところです

*4:図中には"SMP"と誤記されているけど

*5:ちなみに想定される作用機序は[http://f.hatena.ne.jp/takehiko-i-hayashi/20130118084002:title=この図]のようなかんじらしいです

*6:疫学研究から、PM2.5の濃度上昇は肺がん死亡を増加させる一方で、肺がん罹患率は低下させるというmixedな結果が得られているため

*7:相対リスク=(PM2.5濃度が10μg/m3増加したときの死亡率/PM2.5濃度が10μg/m3増加してないときの死亡率)

*8:あまり正確な言い方ではない

*9:ちなみに最も質の高い研究と目されているっぽい[http://pubs.healtheffects.org/getfile.php?u=478:title=Krewski et al. (2009)]で示されている相対リスク値は1.03です

*10:というか一番かも/誰か他に候補思いつきますか?>識者がた

*11:この値に関してはなんか細かい設定があるようなんだけどちょっとフォローできてません/20μg/m3という説もある?

*12:ZAZEN BOYSの松下さんと吉田さんのサイン入りTシャツ。いいでしょ!

あの娘ぼくがiPadでプレゼンしたらどんな顔するだろう

今年も生きてるよ!明けましておめでとうございます。みなさま年末年始はどう過ごされましたでしょうか?*1


今日はエア後輩およびプレゼン倦怠期*2のみなさまに向けて、「iPadを用いたプレゼン」について書いていこうと思います。


さいきん私は、なるべくiPadを用いてプレゼンテーションを行なっています。

その理由は、「仕事にも使うから」という理由で妻にiPadを買うのを許可してもらったので、無理をしてでも仕事のどこかでiPadを使う必要があるからです。

はい。でも、いや、それだけではなく、iPadを用いたプレゼンには実際に幾つかの大きなメリットがあるので、つらつらと書いていきたいと思います。

メリット(1)スライドを拡大できる

まず第一のメリットは「スライドを拡大できる」という点です。

例えば、こんなスライドのとき:


上図の部分をこんなかんじに拡大(ピンチアウト)すると:


その図表の詳細について、スライドを変えぬまま話の流れを切らずに紹介していくことができます。

また、拡大できることにより図表のフォントサイズの制限が少なくなるので、例えば論文PDFを図表そのままコピペしても何とかなる場合も多く*3、プレゼン資料作成の手間を一部省力化することもできます*4

メリット(2)スライドにリアルタイムで書き込みできる

第二の大きなメリットは、スライドにリアルタイムで書き込みできることです(注:書き込み対応のアプリが必要)。

これは、例えば上記の拡大した図に:


のような注釈をプレゼンの最中にリアルタイムで書き込むことができます。


この「リアルタイムで書き込みできること」のメリットは、何といっても「プレゼンにライブ感が出る」ことだと思います。

聞き手の立場になってみると、プレゼンを聞いてると基本的になぜか突然ものすごく眠くなりますよね?

そのような聴衆を襲う睡魔を追い払うために有効なのは、プレゼンにできるだけ「ライブ感」を出すことだと思うのですが、「リアルタイム書き込み」はその「ライブ感」の演出として一定の効果があると思います。

(また、講義・講習などのときには、スカスカ気味のスライド資料を用意/配布して、話をしながら順次内容を書き込んでいくのも良いかと思います。最初からびっちり内容が詰まった配布資料を渡されると、つい配布資料を得た時点でなんだか満足してしまうというのが人のサガですよね)

メリット(3)ドヤ顔できる

第三のメリットは、「ドヤ顔」できることです。

今ならまだ、iPadを用いたリアルタイム書き込み」スタイルのプレゼンをする人は少ないので、このプレゼンスタイルを用いることにより周りの人に向けてドヤ顔することができます。

はい。できればこんなかんじでドヤ顔しましょう:





はい。


で、この「iPadを使ったリアルタイム書き込み」スタイルのプレゼンにはもちろんデメリットもあります

デメリット(1)もしプロジェクターにiPadが繋がらなかったら大ピンチ!

いちばん怖いのは、いざ本番となったときに「プロジェクターとiPadの相性が悪くてつながりません」となることです。

個人的には今までそういう事態になったことはありませんが、こうなる可能性はいつでもあるかと思います。もしあらかじめ動作確認ができる環境であるならば、プロジェクターとの相性は事前に確かめておきましょう

プレゼンを行う場所が出先の場合には、念のため、「iPadでのリアルタイム書き込み」ができない口頭のみの説明(PCでの説明)でもそれなりに成立するようなプレゼンの様式にしておきましょう。

デメリット(2)コネクタが抜けやすい

細かいところですが、iPadとDVIなどを繋げるケーブルは抜けやすいので、注意しましょう。

iPadを手に持ってプレゼンするのはやめたほうがいいかもです。

デメリット(3)盲点:字の下手さがバレる

あと、意外な盲点として、スライドにリアルタイムで字の書き込みをすると、字の下手さがみんなにバレてしまいます

なので、字が下手な人は、あらかじめ「まだiPadスタイラスの精度が悪いなぁ。。ちゃんと字を書いてるのに認識しくれないよぅ。。。」とプレゼンの最初のほうで独り言を呟いておくと効果的でしょう。


はい。

実はここからが本題:アプリとペンの選択について(2013年初頭版)

ということで、iPadでリアルタイム書き込みスタイルのプレゼンする際に悩ましいのは、プレゼンの際に使うiPadアプリとスタイラスペンの選択です。

私はいつもプレゼン資料のファイル自体はKeynoteかパワーポイントで作り、本番はそのファイルをPDFに書き出しして使っています*5。そのようなケースでは、プレゼンの際のiPadアプリに必要な要件は:

  1. PDFがキビキビ読めて、さらにスタイラスペンで快適に書き込みできる
  2. 動作が安定している(プレゼン途中でクラッシュしたらかなわん)
  3. 外部プロジェクターへ画面を映すことができる

の3つとなります。

現在のところ、この要件を満たすアプリの私のファーストチョイスはiPadの定番ソフトであるGood Readerです。

ASCII.jp:何でも見られる神ビューアー「GoodReader」を徹底解説 (1/4)|柳谷智宣の「神アプリの説明書」
iTunes の App Store で配信中の iPhone、iPod touch、iPad 用 GoodReader for iPad

なんといっても、アプリの安定感・PDF表示の速さ・取り回しの良さ*6などはさすがiPadにおける定番ソフトだと思います。ペン入力の反応も悪くありません(アップデートにより以前と比べても良くなっている気がする)。


ちなみに現在使っているスタイラスペンはこちらです:

iPad/iPhone用スタイラスペン(タッチペン) Su-Pen P170M-CLB (ブラック)

iPad/iPhone用スタイラスペン(タッチペン) Su-Pen P170M-CLB (ブラック)

ちょっとお高いですが、かなり書き味は良いです*7


そんなかんじが現時点での私のオススメです。

はい。


というわけで、みなさまも「iPadを用いたリアルタイム書き込み」スタイルのプレゼンにぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか? (ていうかやってみるとプレゼンしていて意外と楽しいですから!)


【もし他にもオススメのアプリやペンなどがありましたら、いろいろブクマコメントなどをいただけましたら幸いです】


それでは、今年もよろしくお願いいたします。





(*ちなみに本エントリーの標題の件につきましては、"あの娘"がアラフォー以上だと「OHPみたいで懐かしいね!」という反応が返ってくることが多いです。。。)

*1:私は録り貯めていた「[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%83%AC%E3%83%AD%E2%98%86%E6%9C%AA%E7%A2%BA%E8%AA%8D%E5%B0%91%E5%A5%B3:title=ウレロ未完成少女]」とhuluで見れる「ウレロ未確認少女」を見て過ごしました。面白すぎて最高すぎ、そして早見あかりの青春ゆえの輝きが眩しすぎの年末年始でした

*2:プレゼンのスタイルがすっかりマンネリ化してしまい、日々のプレゼン作成において新鮮味や楽しさが感じられず、ただただ「義務と演技」でプレゼンをこなすようになっている状態のこと

*3:論文ゼミのように相手も同じ資料を持っている場合には、むしろPDFからそのままコピペの方がコミュニケーションが捗ることもある

*4:もちろんその省力化がOKかどうかはプレゼンのTPOにもよります

*5:「プリント」からPDF書き出しをすると周りに若干の余白ができてGoodReaderのツールバーと被らないので捗る

*6:複数の資料を切り替えながら見せたいときに、異なるファイルをタブ切り替えできるのはかなり便利

*7:そもそも書き味優先ならば、アプリに[https://product.metamoji.com/ja/anytime/:title=Note Anytime]を使うというのも候補に入るかもしれませんが、少なくとも私のiPad(第三世代)で試してみた限りでは、PDFの表示が遅いのでプレゼン用としてはちょっとまだ難があると思います。ただ、「PDFに書き込みできるアプリ」としてはかなり快適なので、論文を読むときには現在私はNote AnytimeとSu-penの組み合わせでやっています