Take a Risk:林岳彦の研究メモ

自らの研究に関連するエトセトラについてのメモ的ブログです。主にリスク学と統計学を扱っています。

なぜ私は研究者を辞めなかったのか

あけましておめでとうございます。今日は新年からちょっとウェットな内容というか、「私はなぜ研究者を辞めなかったのか」について書き留めておきたいと思いました。いや「誰得」な話なんですけれども。 端的にいうと「辞める勇気がなかった」 自分のここま…

セミナーの備忘メモ「雌雄の拮抗的共進化 カワトンボ類の精子の掻き出しは左利き?」

年明け最初のつくば進化生態学セミナーの備忘メモ。Sexual conflictと左右性の進化のコンボ。これは行きたいなあ。 - 第17回 つくば進化生態学セミナー 演 者|林 文男さん(首都大・理工・生命科学) 演 題|雌雄の拮抗的共進化:カワトンボ類の精子の掻…

「なんだかうまくいかない人のためのページ」のリンクメモ

矢原先生の記事で以下の記事が紹介されていました。Horiguchi-Abe lab. FAQ: How to encourage yourself (In Japanese)「なんだかうまくいかない」院生に向けてアドバイスをおくる内容となっていますが、すごく細かい配慮が感じられて素晴らしいです。そして…

日本感染症学会による新型インフルエンザまとめ

日本感染症学会が新型インフルエンザについてのまとめを発表しています。日本感染症学会 - インフルエンザ情報 - 「2010年の総括と2010/2011冬に向けた日本感染症学会の考え方」日本での重症化・死亡例が少ないのは、早期の段階での抗インフルエンザ剤(タ…

『統計的因果推論:モデル・推論・推測』を読む(その4)

前回からの続きです。いくつか抜き書きしていきます。今回は「1.4 関数因果モデル」の部分。 本書では、因果関係をLaplaceの準決定論的概念*1を用いて記述し、これを確率的概念と対比させ、因果的な実態を定義し、解析する。この概念を選択した理由は3つあ…

『統計的因果推論:モデル・推論・推測』を読む(その3)

前回からの続きです。今回は因果ベイジアン・ネットワークについての説明。 第一章 確率、グラフ、因果モデル入門 「1.3 因果ベイジアンネットワーク」 冒頭を引用します(p22)。 条件付き独立関係を記述するツールとしてDAG*1を解釈することはできるが、そ…

階層ベイズの基礎知識:hierarchicalの正しい発音

階層ベイズに関する研究をしていると、きっといつか「hierarchical」という単語を発語しなければならないときがきます。あなたは正しく発音できますでしょうか?以下のリンクで音声も聴けます。hierarchicalの意味 - 英和辞書 - goo辞書「ハイアラーキカル」…

ドーパミン vs リスク評価:あるいは石川遼 vs MONOQLO

今回はネタ帳メモ的なボンヤリ系の内容です。お気軽にお読みいただければ幸いです。 錯覚・反省・計算:ピエール=シモン・ラプラスと中西準子 ラプラス(1749-1827)の言葉に以下のようなものがあります*1。 ”視覚に錯覚があるように精神にも錯覚がある。そ…

『統計的因果推論:モデル・推論・推測』を読む(その2)

前回からの続きとなります。著者のJudea Pearlはベイジアンネットワークの創始者であり、本書もベイジアンネットワークの説明が主となるようです。ただ全体的な記述がかなり数学的なのでなかなか頭に入ってきませんが。。。 第一章 確率、グラフ、因果モデル…

『統計的因果推論:モデル・推論・推測』を読む(その1)

今回から以下の本を読んでメモを残していきたいと思います。自分の場合、厳密に言うと「ベイズ統計」自体よりも「因果推論」の方に興味があるので。統計的因果推論 -モデル・推論・推測-作者: Judea Pearl,黒木学出版社/メーカー: 共立出版発売日: 2009/02/2…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その10)

前回からの続きとなります。今回が遂に最終回です。今回はより大きな思想史の観点からの位置づけの議論となります。引用していきます(強調は引用者): これまでフィッシャー対ネイマンの論争点に則して解説してきたが、もう少し離れた点から評価すれば、フ…

シンポの備忘メモ「多型現象:その時空間的変化と存在意義」

2010年度日本生態学会関東地区会公開シンポジウムとして、以下のシンポが開かれるらしいので備忘メモ。おもしろそう。 公開シンポ「多型現象:その時空間的変化と存在意義」 日 時:2011年1月8日(土)13:00〜17:00 会 場:秋葉原ダイビル12階(東京都千代田…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その9)

次回からの続きです。今回は、フィッシャーvsネイマンの対立を、その後の数理統計学の流れの中で議論していく部分となります*1。ちなみにこの訳書は1962年刊行ですので、その時代感覚も含めて読んでいく必要があります。引用していきます(強調は引用者): …

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その8)

前回からの続きです。今回は不偏性に関する議論です。不偏性の簡単な説明については以下も参考になるかと思います。不偏性 前回からの引用の続きです(強調引用者): 推定においてフィッシャーが不偏性の規準を攻撃することも当を得ている。各人が推定する…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その7)

前回からの続きです*1。便宜上、段落の途中で引用を区切りますがご容赦ください。 ネイマンの考え方にたいするフィッシャーの批判ないし反発は、確かに的を射ている面も多いし、また論理一貫性を追って無理な批判となっている点も見られる。 近似的には同一…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その6)

前回から続きます(強調は引用者): もう一つの、そうして最もやかましい議論を生じた問題は、区間推定に関してである。 いま上にあげたのと同じ問題について考えると、 となるから、これを変形して と表される。したがってとで限られた区間に母数が含まれ…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その5)

前回からの続きです: 改めてフィッシャー対ネイマンの論争にもどって、具体的に争点となった問題を説明しよう。 最初に問題となったのは仮説検定論である。フィッシャーは、カール・ピアソンと同じく、仮説検定の問題を、得られた標本が仮定された分布をも…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その4)

前回の続き(強調引用者): このような立場は、それぞれ現在の統計学におけるいくつかの考え方のあるものを代表しているのである。確率を頻度として考える立場の代表者はフォン・ミーゼスである。彼は確率を集団現象における相対頻度の意味に限定し、さらに…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その3)

前回から続きます: 統計的推測における”確からしさ”あるいは”確率”の問題を考えるために、三つの段階を区別しなければならない。たとえばものの長さを測る場合をとると、 1.測定の方式(測定の回数等)と観測値からの推定方式を定める。測定方式はいろいろ…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その2)

前回から続きます。続き(強調は引用者): ところでこのように見てくると、ここで”確からしさ”あるいは”確率”というものについての、いろいろな考え方がからみあっていることがわかるであろう。ネイマンは”確率”をもっぱら客観的に観測可能な繰り返し試行に…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」の訳者解説が素晴らしすぎる(その1)

本編の方はフィデューシャル推測の項まで書いたのでもう良いかなあ、と思って終わりにして、今回から同書の「素晴らしすぎる訳者解説」のメモを書いていきます。訳者の方は「渋谷政昭・竹内啓」さんなのですが、巻末の訳者解説が本当に素晴らしく完成度が高…

ちょっとおもてたんとちがう:ミツバチのCCD(蜂群崩壊症候群)のウイルス原因説の論文を読んでみた

研究室での論文紹介セミナーのために、ミツバチのColony Collapse Disorder(CCD; 蜂群崩壊症候群)のウイルス原因説の論文(Bromenshenk et al. 2010 in PLoS One)を読んでみました。元論文のリンクはこちらGizmodoの以下のニュース ミツバチはなぜ大量死する…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」が面白すぎる(その12)

前回に引き続き、今回もいわゆるフィデューシャル推測の節。今回が本節(第3章3節 推測度による論法)の最後となります。前回の部分の引用の続きで、フィデューシャル推測の確率論としての取り扱いについての議論がされています(強調は引用者): ハロルド…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」が面白すぎる(その11)

前回に引き続き、今回もいわゆるフィデューシャル推測の節。前回の部分の引用の続きで、導出したの頻度分布の解釈についての議論になっていきます: 実験者が事前の知識なしに、実験の結果得られたTのある値にもとづいて追求している、の特定の未知の値にた…

蒲生(2010)「社会の意思決定を支えるリスク評価へ」の引用メモ

今日届いた日本リスク研究学会誌20(3)の、蒲生(2010) [p189-195]から。「大切だが定量化になじまない要素」についての言及のメモ(強調引用者)。なるほど。 一方、化学物質に限らず、多くのリスク事象は多様な側面を有していて単純に比較することはできない…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」が面白すぎる(その10)

今回もいわゆるフィデューシャル推測の節。前回の続きから引用: この推理様式の一例として、粒子を未知の頻度で互に完全に独立な時点で放射している放射能源を考えよう。あい続く二つの放射の間隔はランダムで指数分布 にしたがって分布しているだろう。こ…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」が面白すぎる(その9)

今回から、第3章「いろいろな形の定量的推論」の第3節「推測度による論法」を見ていきます。いわゆる「フィデューシャル推測」ってやつですね。この節は詳しく見ていきたいと思います。冒頭から引用していきます(強調は引用者): 推測度という言葉は、あ…

ミーティングなどの日程調整のためのシンプルなサイトのメモ

ミーティングなどを主催する際に、何が大変かというと日程を調整するのが大変ですよね。最近、他の方が主催するミーティングの日程調整で、以下の「伝助」というサイトが使われていたのですが、かなりシンプルで良かったです。伝助 スケジュール調整サービス…

フィッシャーの「統計的方法と科学的推論」が面白すぎる(その8)

いささか間が空いてしまいましたが、本書のメモも再開します。第3章「いろいろな形の定量的推論」の第2節「より一般的な仮説」より。強調は引用者。 科学的仮説では、一つあるいは二つ以上のパラメータ、つまり調整可能な"定数"が含まれており、それがどの…

進化学者のためのMCMCのアナロジカルなアヤシイ解説/その3

今回は本解説シリーズ(第1回・第2回)の最終回として、「無性生物の進化シミュレーションとしてのMCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)」について解説していきます。今回は長いっす。 無性生物集団の進化は「マルコフ連鎖」&「モンテカルロ」 まずは「マ…